韓国歌謡,何を聴くべきか?
--歌を学び歌に学ぶ朝鮮語  改訂!
23 September

●韓国歌謡とは?
  韓国の流行歌は大きく2種類に分けることができる.1つはトロット(トロトゥ)と呼ばれるもので,日本の演歌に該当する.懐メロは基本的にこれである.いま1つは歌謡(カヨ)と呼ばれるジャンルで,コリアン・ポップスと言うべきものである.コリアン・ポップスは主として1990年代以降に栄える.「ソ・テジワ アイドゥル」(ソ・テジと仲間たち)という3人組が韓国の大衆歌謡を根本的に変革したと言われる.ソ・テジは,マイクの前で歌うだけであった大衆歌謡を,ステージ総体の巨大なエンタテインメントに塗り替えてしまった.ソ・テジは文字通り韓国大衆歌謡の革命児だったのである.ポップスはダンス曲(テンスゴク)とバラード(パルラドゥ)に2分される.ダンス曲はアップテンポが普通で,ラップ(レプ)が組み込まれていることが多い.ラップやヒップ・ホップ(ヒッパプ)の系統の曲が大きな流れを作っているのが,日本のポップスとの大きな違いである.

  この他に,1980年代以前にはフォークに相当するジャンルが大きな力を持っていた.シンガー・ソング・ライターであるキム・ミンギや,歌手ヤン・ヒウンがその代表である.70年代には彼らの他にソン・チャンシクもあげていい.80年代にはチョン・テチュンやアン・チファンが代表格だろう.韓国のフォークは,労働歌謡(ノドン・カヨ)と呼ばれる労働運動や学生運動の歌につながっており,広く学生や労働者の中に浸透した.実際の運動の中で広く歌われた歌も非常に多い.運動と歌が乖離している傾向にあった日本のフォークと,運動の中に歌があった韓国のフォーク,この点は大きな違いだと言える.

●韓国歌謡は誰が聴くのか?
  韓国では演歌(トロット)は主として年配の層が聞く.若い層はポップスが主である.ほとんどきれいに2分されていると言っても過言ではない.カラオケなどでもこの傾向が顕著だが,酒が入るとポップスだけではなく,演歌も歌うという若い人々も見受けられる.

●コリアン・ポップス,何を聴くべきか?
   −−同時代の声を聴け!

 コリアン・ポップス,近年の名作として次のような曲をあげたい.ナツメロもいいが,同時代の声を聴くのが感性の上では一番近づきやすいだろう.

  1)チヌション「マレジュオ(言ってくれ)」
    チヌションとは,チヌとショーンという男性2人組.これにオム・ジョンファ(次の曲紹介参照)という女性歌手が参加している曲で,1997年の大ヒット曲.男声と女声の混交の妙,朝鮮語のラップの良さが溢れる名ダンス曲.強引に韻を踏ませるラップの破格的な発音も凄い.作曲は,デュースという男性2人組でヒップ・ホップの頂点に立った鬼才イー・ヒョンド.「言ってくれ,ほんとのことを言ってくれ,ほんとにお前の気持ちを言ってくれ」.
 同じCDの「Gasoline」や「ネガ(俺が)」などもいい曲だ.いずれもイー・ヒョンドの曲.イー・ヒョンドは自分でもソロ・シンガーとして曲を出しているが,歌手としてより作曲家として買いたい.チヌションなら最新作「テックォンV」(テックォンとはテックォンドのこと.漢字では1文字目が「足」偏に旁が「台」,2文字目が「拳」なのだが,フォントが表示できなかった)などよりはこの「マレジュオ」あたりから入るのがいいだろう.
CD "JinuSean 2" サムソン・ミュージック 1997

  2)オム・ジョンファ「チョデ(招待)」
   日々変貌を遂げる女性歌手オム・ジョンファの魅力がいかんなく発揮された1998年の曲.ただしこれはCDではなく,ビデオ・クリップ(韓国では「ミュジク・ピディオ」つまり「ミュージック・ビデオ」と言っている)で見たい.韓国ミュージック・ビデオ史に輝く,エロティシズムの極地.韓国のビデオクリップでこれ以上のエロスはその後もまだ見たことがない.赤に偏ったコダクローム風の映像が凄すぎる.しかしビデオは入手が著しく困難かも.もちろんCDでも悪くない.歌詞に見える「ハヌルハヌルハゲ」とか「チョクチョッカゲ」といった擬態語のエロティシズムも凄い.「私は準備ができてるの」「きわどいほどに,しっとりと・・・」.同じCDの"Poison"も悪くない.
CD "uhm junghwa 4" Polydor DK0038  559219-2

  1999年6月リリースの最新音盤からは,「モルラ(わからないよ)」を推薦.「何て言えばいいんだろう,別の人ができたって」「どうして私こうなのか,自分でもわからないの」「あなたが嫌になっちゃったんでもないのに」.また現在は「悲しみなんか忘れちゃえ」と,やたらに明るい「FESTIVAL」がヒットチャートをにぎわしている.これは明らかに60年代ポップス路線.
CD "UHM JUNGHWA 005.1999.06" Polydor DK0051  547794-2

  3)ユ・スンジュン「ナナナ」
    男性歌手ユ・スンジュン1998年の大ヒット曲.ミュージック・ビデオは7分を超えるにも関わらず,ほとんどの音楽番組でも切らずに全編を流したほどの傑作.いわゆる「族」らしき高校生と教生との純愛物語的なストーリーのビデオ.ストーリーは他愛ないが,アップテンポの押しは飽きさせない.この曲のイントロは,同時代の演奏なるもの,4小節以上同じ事を続けてはいけないのだということを見事にわからせてくれる.歌詞は意外に前向き.「暗くなった,隠された俺の道を照らしてくれる,あの歌を一緒に歌ってみようぜ」.1998年前半の韓国はこの曲で埋まった.同じCDの「ネガ キダリン サラン(俺が待った恋)」もいい.
CD "YOO SUENG JUN 1998 V2" SRCD-3497 ソウル音盤

 1999年6月ごろは3rdアルバムの「ヨルチョン(熱情)」がチャートの1,2位を争うヒットとなる.この3rdはラップに演歌と60年代オールディーズ・ポップスを混交したような出来で,聴くほどに良い.なお,この3rdでもわかるように,韓国歌謡は,リズムやバッキングはそれなりに新しいが,メロディだけ取り出すと意外に古き良き時代の香りがする.3rd中「My Story」と「スルプン・チムムク(悲しき沈黙)」はいい.「My Story」はブルース+ラップ,ベースもいい.「お,俺の胸は熱く燃え上がり」と,歌詞はこれまた非常に前向き.これもイー・ヒョンドの曲.

  4)アン・チファン「ネガ・マニル(私がもし)」
   男性フォーク歌手アン・チファンの名曲.アン・チファンは1980年代を代表する,いわゆる運動圏(反体制運動圏)歌手の代表格.「チャムドゥルジ・アンヌン・ナムド(眠らぬ南島)」や「ソラ!プルルン・ソラ!(松よ!蒼き松よ!)」など,韓国労働運動歌史に残る運動圏の名曲,絶唱をいくつも残している.これらはCD「アン・チファン1+2」1994で聴ける.ただし,「ネガ・マニル(私がもし)」は運動圏色のないスロー・バラード.結婚式でも歌える.「私がもし天だったら,・・・君の頬に染まりたい」「今日のように,ぼくらが共にいることが,私にはどんな大きな喜びか,愛する人よ,お前はわかるか」
CD "アン・チファン 2" (韓国の)キング・レコード 1995

  5)ヤン・ヒウン「アチミスル(朝露)」
    女性フォーク歌手,ヤン・ヒウンが歌った稀代の名曲.アコースティック・ギターの時代の代表曲と言える.1970年代に,反体制シンガー・ソング・ライターである,鬼才キム・ミンギが作詞・作曲,すぐに発禁となった.それにも関わらず反体制運動圏を象徴する歌として人口に膾炙し,いまなお学生運動の現場などでも歌われている.今日では市民権を得て,運動圏以外でも広く歌い継がれている.現代史に残る名曲.キム・ミンギが歌うヴァージョンも逸品.「我今行かん,あの荒々しき広野へ,悲しみを皆うち捨てて,我今や行かん」

 日本では金芝河の詩に曲をつけたものを表題曲とするLPレコード「金冠のイエス」が1970年代に地下出版されたことがあるが,そこに収められたほとんどはキム・ミンギの作.キム・ミンギの漢字表記である「金敏基」は,当時は「金民基」と紹介されていたが,これもまた時代の欲するところであったのかもしれない.キム・ミンギについては現在は自由に買える4枚のCDで有名な曲がほぼ網羅されている.キム・ミンギがCDで聞けるようになったのも90年代に入ってからで,それ以前はテープのコピーぐらいしかなかった.それでもみんなが知っていたというところが凄い.なお,在日の歌手であるイー・ジョンミ(李政美,本人はかなで「い・ぢょんみ」と表記している)の歌うキム・ミンギも是非聞いてみたい.李政美のサイトについてはリンクのページを参照のこと.李政美には「カムム(ひでり)」「セノヤ」など絶唱も多い.在日の歌手では新井英一も忘れられない.
CD "ヤン・ヒウン 朝露" 1988 (韓国の)キング・レコード
CD "キム・ミンギ 1" 1993 ソウル音盤

  6)デュース(DEUX)「ウリヌン(俺たちは)」
    イー・ヒョンドの名曲にして硬派デュースの最高峰.狼の遠吠えらしきもので始まる.アップ・テンポの傑作.1993年.デュオであったデュースは解散後,友,キム・ソンジェの死によってイー・ヒョンドのみが生き残ることとなる.「俺は誰だ?それにここはどこだ?あの遠くで誰かが俺を呼んでいる」.その後のイー・ヒョンドの原点,韓国ヒッパプ(ヒップ・ホップ)の原点がここにある.「ナル・トラボァ(俺に振り向け)」も泣かせる.この2曲は文句なしの歴史的名品,今日の韓国のヒップ・ホップの大潮流は彼らなくしてはありえなかったろう.日本にはデュースが出なかったがゆえに,ヒップ・ホップもラップも展開できなかったのである.
CD "DEUXISM" 地球レコード
CD "DEUX FOREVER" SAMSUNG MUSIC  YSCS-224
 

  この他に,フォーク系では,チョン・テチュン「トナガヌン・ペ(去りゆく船)」1983,「チョップル(ろうそくの火)」1983などが渋く,硬派にして知性派.ソン・チャンシク「イーシムニョン・ジョンチュメ(20年ほど前に)」1978,「カウィバウィボ(じゃんけんぽん)」等々.ソン・チャンシクは70年代の学生たちに広く支持された.柔らかいところでは,イルギ・イェボ(天気予報)「チョア・チョア(好き好き)」1996,ハスキー・ボイスのイー・ソラ「キオッケジュォ(覚えていてね)」「HAPPY CHRISTMAS」1996なども聴きたい.イー・ソラはSkyPerfecTVのKNTVでも「イソラのプロポーズ」という番組を見ることができる.韓国の松任谷由美,あるいは中島みゆきといったところか.歌がうまいわけでは決してないが,大学生などに大人気――と書いたら,上智大学のYさんに抗議された.すみません,なるほど,松任谷由美や中島みゆきよりははるかにうまいですよね.

 「チョア・チョア」などは,大学生くらいの年齢であれば,大概の人は受け入れてくれる.このアコースティック・ギターもいい.実にいい音を出している.さて,一音だけをぽーんと投じて泣ける楽器というと,ギターとバイオリンに極まると思う.30年代の終わり,スウィング・ジャズに変革のエレキ・ギターをひっかついできたのはチャーリー・クリスチャンだったし,60年代フォークはギターが作った.ボブ・ディラン,ジョン・バエズ,PPM,皆ギターと共に在った.ヤン・ヒウンなどもそういう世代だ.言うまでもなくロックはもうギターそのものである.ソ・テジもメタル・ギタリストだった.ほら,遠くロシアだって,ギターのないウラジミル・ヴィソツキィを考えられるだろうか?美空ひばりの「悲しい酒」だってそうだ!そうした意味でこの「チョア・チョア」のギターの間奏はいい.韓国歌謡ギター史上,10本のギターに入るのではないか.え?あと9本は何かですって?

 (参考)ところで韓国ではないが,10本のギターというと.ジャズではチャーリー・クリスチャン,ジャンゴ・ラインハルト,ハーブ・エリス,バーニー・ケッセル,ジョー・パス,ビレリ・ラグレーヌ,フィリプ・カテリーヌ,フュージョンではアル・ディ・メオラとパコ・デ・ルシア,ロックではジミ・ヘンドリクス,ブルースではジョニー・ウィンター,憂歌団,ラテンではトリオ・ロス・パンチョス...10本をどんどん越えてしまう...

  韓国フォークは,朝鮮語学習の観点からは,聞き取りやすく,入門には最適.名曲も多く,感情移入なども容易で,朝鮮語の世界に接近するとてもよいデバイスである.童謡は擬声擬態語が多用されるなどで,意外に歌詞が難しかったりするが,フォークはわりに易しい.

  ポップス的新演歌,あるいは演歌風ポップス・バラードでは,キム・ジョンファン「チョンジェエ・イユ(存在の理由)」1996,「サランウル・ウィハヨ(愛のために)」1997,コ・ハヌ「アミョン(暗然)」1997が良い.「暗然」はバイオリンあり.「存在の理由」はテレビドラマの挿入曲ともなり,猛烈にはやった.キム・ジョンファン「テチェゴムヌン・ノ(手の着けられないお前)」1996の歌詞も面白い.キム・ジョンファンも作詞・作曲・歌をこなす逸材である.
 これらは最後のものを除き歌詞も聞き取りやすく,言語の習得には大いに助けになる.

 ダンス音楽,ポップス系では,最早古典となったソ・テジワ・アイドゥル「ナン・アラヨ(僕はわかっています)」1992,「海東盛国」1994を始めとする一連のソテジの作品はとにかく聴いてみたい.メッセージ性が強く,スケールがどんどん大きくなったのも特徴.ビートルズが個の歌から時代の歌へと成長していったことを思い起こさせる.ソ・テジはメタルもうまく取り込んでいる.ともかく文字通りの古典.解散後,ソロ活動でカムバックしたが,いまだステージやテレビなどには姿を見せず,CDとビデオのみ.アニメを多用したビデオクリップの映像そのもののセンスはそれほど高くは評価できない.

  国民歌手キム・ゴンモの「スピードゥ(スピード)」1996,リズムはダンス,メロディは演歌のヨン・トックス・クルロプ「チョン(ウィホマン・イビョル)情(危険な別れ)」1996,とルールラ(ROO'RA)「天上有愛」1995,UPの「ミヤ(美夜)」,明るいクルロン(CLON)「クンタリ・シャバラ」,「ナン」1996,チェクスキス「サナイ・カヌン・キル(ポムセンポムサ)(男の行く道(カッコに生きカッコに死す))」1997,超人気グループH.O.Tの曲中では最硬派「ヌクテワ・ヤン(狼と羊)」1997など,女性歌手イム・ソンウン「ミリョン(未練)」1997など.この曲はバックの早びきのガット・ギターもいい.ビデオ・クリップの完成度が高いシヌァ(神話)「ヘギョルサ(解決士)」1997,シヌァのビデオクリップは,最新作のビデオもなかなか悪くない.また,歌詞がなかなか過激なO.N.School「Big Bang(混沌と秩序)」1998,最近のものではS#arpの「Lying」1999,1tymの「1tym」1999.ヒップ・ホップから毒気を抜いたところではS.E.S「('Cause) I'm Your Girl」,ピジュ「Love Love」1998,パク・チユン「Steal Away」1998・・・などを推挙する.

  1999年後半では,Y.G.Familyの「ウリヌン・Y.G FAMILY」がヒット中.このビデオ・クリップも,ちょっと暴力的なのが嫌だが,映像的完成度は高い.チヌションや1tymが一緒にやっている.このアルバム(CKC-0074)ではチヌションの「Y.G BOUNCE」を推挙.このアルバムはソテジワ・アイドゥルのヤン・ヒョンソクがプロデュース.全編をラップで押しまくり,悪ぶっている硬派のヒップ・ホップ路線の珠玉の一品と言えそう.
  パク・チユンは最近は「カ・ボリョ(いなくなっちゃえ)」がヒット中.ダンス曲には1999年夏以降,「テクノ」と呼ばれるリズムが少しはやりだが,ちょっと単調になりがちであまり推せない.
 この他に最新のものではチェ・ジョンアン「ムジョン(無情)」,パク・ヘヨン「サジン(写真)」,ペク・チヨン「ソンテク(選択)」.いずれも女性.

  ダンス音楽では,例えばH.O.Tなどは,さすがに踊りはうまい.もちろんSMAPなどよりはるかに上手.音楽番組などで「その秀でた歌唱力」などと形容される歌手も多いが,そんな名人芸的な力量の歌手はあまりいないような気がする.例えばキム・ギョンホのように,絶叫型というか,ひたすら盛り上げて行こうと歌う歌手がとりわけバラード系歌手には多く,抑制の効いたうまさにはなかなか出会わない.この点,単刀直入に迫るダンス系が韓国ではいいように思う.バンド系はあまり知らない――と,書いたら東京外国語大学のH君に,バンド系も出せと抗議された.すみません,研究します.ちなみにハンス・ベンドゥなんかも,と言われたが,歌も演奏も下手すぎてちょっとね….そうそう,韓国には歌の下手な歌手というのは基本的にあまりいなかったのだが,最近はいる.もちろん歌の上手下手と,歌の良し悪しは並行するものではないが.
 なお,ここにあげたほとんどはラップ入りなので聞き取りの練習などには難しすぎるが,歌詞そのものは日常の話しことばがたくさん取り入れられており,難しくても勉強にはなるだろう.

  バラード系では現在ヒット中の,女性シンガー,ヤンパの短調「Addio」が胸を指す.なお,「ヤンパ」とは「玉ねぎ」の意.文字通りには「洋ねぎ」,つまり「西洋ねぎ」だ.もちろん芸名.CDのジャケットも面白いかも(CD"YANGPA 03"シンチョン・ミュジク,WJCC0273).同アルバムには「エイブルビ(哀而不悲)(哀しくも悲しからず)」という題名の曲あり.韓国歌謡にはしばしばこうした漢文調の題名が登場する.漢字文化圏の伝統あってこそだが,台湾歌謡の影響もあるかもしれない.ルールラ(ROO'RA)「天上有愛」1995,UPの「ミヤ(美夜)」もそうした例だ.チェクスキスの最新作「ピ(悲)」は漢字語とも言えない,文字通り漢字そのものだ.この曲はラップに混じってヘリコプタの音や川の流れの音も入っていて,いい.なお,歌に歌以外の要素を入れてレコード化するようになったのはやはりビートルズの功績だろう.

 韓国は再三触れているように,ヒップ・ホップ的な要素が強く,ユーロ・ビート系が強い日本の同時代のポップスとは一線を画す.小室的なものより宇多田ヒカル的な感じのものが韓国では受け入れられやすいのではないかと思う.宇多田ヒカルのアルバムには,前奏だけ聴くとどうして急にここに韓国歌謡が入っているのかな,と錯覚を覚えるようなものがちらほら.ということは,逆に韓国歌謡も日本で受け入れられる素地ができているということかもしれない.

  日本の宇多田ヒカルやロシアのウラジミル・ヴィソツキィのように,<こゑ>が<うた>になる瞬間を垣間見ることができる歌手というと,パク・チョンヒョン(Lena Park)を上げねばならない.ユン・ジョンシンの手になるバラード曲「ナエ・ハル(我が一日)」を歌うパク・チョンヒョンを聴いてみよう.この曲の入ったアルバムの"introduction"も朝鮮語ではないが,凄い.

  演歌系,懐メロ系では,「コヒャンチョ(故郷草)」「イビョレ・プサン・チョンゴジャン(別れの釜山駅)」「タヒャンサリ(他郷暮らし)」「モクポエ・ヌンムル(木浦の涙)」「ファンソン・イェト(荒城の跡)」「ヒマンガ(希望歌)」「ヘバンガ(解放歌)」などが泣ける.チャン・セジョン「コヒャンチョ(故郷草)」などは絶品.イー・ソンエ「カスマプゲ(胸こがれて)」もいい.これらよりは比較的新しく,多くの歌手が歌っている「イビョル(別れ)」は,キム・ジョンミンがCD"CHANGE"1996で歌ったヴァージョンが意外に新鮮で良い.韓国ではこういうリメイクがしばしばある.
  演歌歌手としては「悲しい酒」における美空ひばり,「津軽海峡冬景色」における石川さゆりに匹敵するような超絶唱はないような気がするが・・・.あったらすみません.ペティ・キム,イー・ミジャ,ナ・フナ,チョ・ヨンピルなどが代表的な演歌歌手.最近はソル・ウンドなども.しかし演歌は森進一や藤圭子,都はるみ等を擁する日本の演歌の方が層が厚いかも知れない.かろうじてチョ・ヨンピルぐらいが迫っているか?勝手にランク付けしてなんだが,韓国演歌はなんとなく五木ひろしクラスで留まっている感じ.余談だが,石川さゆりが「二十世紀の名曲たち」というシリーズを出していて,その第4集,全13番まで歌いきった「籠の鳥」,これは泣かせる.
 演歌系は聞き取りやすく,歌いやすいが,もちろん歌詞は「故郷」だの「連絡船」だのと古く,感性の柔らかい人でないと10代,20代の人はついてゆけないかもしれない.

●CDはどこで入手できるのか?
  東京のことしかよくわからないので,本当に恐縮だが,新宿の丸井にあるヴァージン・メガ・ストアとか,新宿ルミネ1にある新星堂,吉祥寺のWAVEなどが品揃えが良いらしい.タワー・レコード,HMVなどでも買えるようだ.新宿職安通りには安く買える店もある.地方の方は通信販売に頼らざるを得ないかもしれない.インターネットでも買えると思う.筆者はCDを韓国で入手することがほとんどなので,このへんの事情になると筆者の領域を超える.リンクのページから「韓国音楽の館」などを探ると詳しい情報を得ることができる.

●もっと詳しく知りたい!
  ここに挙げたのは,ややもすると主観的な,それもごく一部に過ぎない.韓国音楽についてもっと詳しく知りたい方は,インターネット上にもっと恐ろしく凄いサイトがある.リンクのページからたどって行こう!

  なお,コリアン・ポップスを聴いたら,韓国の現代詩へと入って行くのも良い.音楽は楽しいが,文学も凄いのがある!

●こんな曲もあるぞ!この曲が入っていないなんて!という方は教えてくださいね.
 

*本頁の内容について,小沢英裕氏より貴重なご指摘を頂戴しました.ありがとう存じました.

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